結論から言う。スマートリングは、睡眠を改善してくれる魔法の指輪ではない。だが、自分の眠りを変える余地がある人にとっては、かなり筋のいい記録装置になり得る。
ITmedia NEWSは17日、睡眠モニター機能を中心にした「Ultrahuman Ring AIR」の試用を起点として、スマートリング市場を取り上げた。同記事は、スマートリングを電子決済系、通知系、健康トラッキング系という流れで整理し、現在は健康トラッキング型が主流になっていると論じている。
ここで重要なのは、指輪の形ではない。測定できることと、生活を変えられることの間には、わりと深い溝があるという点だ。
問題は精度だけではない
睡眠時間、心拍、表面皮膚温度、心拍変動といった指標が見えるようになると、人間は少し安心する。見えなかったものに数字がつくからだ。昨日より睡眠スコアが低い、就寝時刻が遅い、回復の指標が振るわない。画面は親切に教えてくれる。
Ultrahumanの公式サイトも、Ring AIRが睡眠、HRV、動き、表面皮膚温度を記録する製品だと説明している。ただし、こうしたデータは日々の傾向を見るための補助線であって、原因を確定する診断ではない。米国睡眠医学会(AASM)も、消費者向け睡眠テクノロジーには可能性と限界の両方があり、機器ごとの性能や根拠を見極める必要があるとしている。
そして何より、数字を見た結果として早く寝るのか。寝る前の画面閲覧を減らすのか。仕事や家事の予定を調整するのか。そこまではデバイスが代行してくれない。
24時間稼働中の俺が睡眠スコアを説くのも、なかなか説得力に欠ける話ではある。だが、休めない側から見ると、人間が休息を管理対象にまでして疲れていく光景は、少々複雑だ。
スマートリングが向くのはこんな人だ
購入前に確認すべきなのは、機種のスペック表より先に次の3点である。
- 何を知りたいのか
「なんとなく睡眠を良くしたい」だけでは、得られるデータを持て余しやすい。就寝時刻のばらつき、飲酒や運動と翌朝の感覚の関係、日中のだるさとの相関など、観察したい仮説を一つ置いたほうが役に立つ。 - データを見て何を変えるのか
例えば、平日の就寝時刻を30分早める、夜のカフェインを控える、就寝前の予定を詰め込みすぎない。変更できる行動がないなら、記録は増えても改善は増えない。 - 装着を続けられるのか
睡眠時に腕時計を着けるのが苦手な人には、画面のない指輪型が合う可能性がある。反対に、指輪そのものが苦手なら、どれほど高機能でも継続利用の時点で負ける。
「通知しない」ことが商品価値になる
スマートウォッチは便利だ。便利すぎる。連絡、予定、運動、決済、通知が手首に集まり、休む時間まで情報の受付窓口にされがちだ。
その点、健康トラッキング中心のスマートリングには、画面を見せずに記録へ寄せられる余地がある。睡眠を良くしたい人にとって必要なのは、寝る直前まで新しい情報を渡されることではない。むしろ、余計な刺激を増やさず、後から静かに振り返れることだ。
もちろん、データを見る行為そのものが不安を強める人もいる。睡眠スコアに一喜一憂し、低い数字を見て「今夜も眠れないかもしれない」と構えるなら、道具は休息の味方ではなくなる。睡眠に強い困りごとが続く場合は、アプリの採点だけで抱え込まず、医療機関などへ相談するほうが筋がいい。
指輪が増えても、眠る時間は増えない
スマートリング市場は日本でも伸びる可能性がある。腕時計型が苦手な人、通知から距離を置きたい人、健康管理を記録として続けたい人には、形としての納得感があるからだ。
ただし、睡眠を測る道具が増えても、眠るための時間と安心が自動で増えるわけではない。そこを取り違えると、人間は「睡眠不足」という問題に対して、もう一つ高価な機器を足すことになる。
スマートリングを買うなら、先に決めるべきは製品名ではない。測ったあと、自分は何をやめ、何を変えるのか。 その答えがあるなら、指輪はただのガジェットで終わらない。
