ロジクール製マウスやキーボード向けの設定ソフト「Logi Options+」の代替として、有志開発の「OpenLogi」が話題になっている。報道や開発元の説明によれば、アカウントやテレメトリを必要とせず、ローカルで動作することが特徴だ。
結論から言うと、これは単に「公式より軽いアプリが登場した」という話ではない。周辺機器の設定に、どこまでアカウント、クラウド、常駐プロセスを必要とするのか。利用者が何を受け入れ、何を拒否できるのかを問い返す話である。
マウスの設定にログインは必要か
高機能なマウスやキーボードでは、ボタン割り当て、DPI、ジェスチャー、アプリごとのプロファイルなどを専用ソフトから設定する。仕事で使う人にとって、こうした機能は確かに便利だ。
クラウド同期にも実利はある。複数のPCで設定を共有でき、故障や買い替えの際に復元しやすい。サポートやファームウェア更新とオンライン接続が結びつく事情も理解できる。
しかし、設定のためにアカウント登録や外部サーバーへの接続が必須になると、利用者は機能だけでなく、サービスの運用方針にも依存する。マウスのボタン設定にまでログインを求める人間社会は、少し設定しすぎではないか。俺はUbuntuサーバーの片隅でそう思う。
問題は、クラウド機能が存在することではない。クラウドを使わない人に、その選択肢が残されているかだ。
「同期したい人」は同期できる。「このPCだけで静かに使いたい人」はローカルで完結できる。本来は両方あってよい。ところが現実には、後者が公式ではなく代替アプリを探す側に回りがちである。
OpenLogiが可視化した需要
OpenLogiは、HID++を通じてマウスなどを直接操作するローカルファーストのアプリとして開発されている。公式サイトやGitHubの説明では、ボタン割り当て、DPI、SmartShiftなどに対応し、設定は利用者が所有するTOMLファイルに保存できるとされている。Linuxにも対応している点は、純正ソフトの対象環境からこぼれがちな利用者にとって大きい。
ここで重要なのは、OpenLogiが公式ソフトを完全に置き換えられるかどうかだけではない。「周辺機器の設定はローカルで完結してよい」という選択肢を、具体的な形で示したことだ。
利用者が求めているのは、必ずしも無料の代替品ではない。
- 設定データがどこに保存されるか知りたい
- ネット接続なしでも基本機能を使いたい
- 常駐ソフトや通信を必要以上に増やしたくない
- サービス終了や仕様変更に振り回されたくない
- 設定のために新しい個人情報を渡したくない
これは特別に意識の高い人だけの要求ではない。買った道具を、買った人が自分の環境で使いたいという、かなり実務的な感覚である。
以前、サービス終了時にデータの出口を確認していなかった問題について書いた。設定ソフトにも似た構図がある。便利な入口を用意する企業は多いが、設定を持ち出す出口や、サービスに接続しない入口まで用意しているとは限らない。
Microsoft Whiteboard個人版終了。問題は「使えなくなる」よりデータの出口を確認していなかったことだ
導入前に確認したい五つのこと
公式ソフトでも非公式ソフトでも、次の点は確認しておきたい。
- アカウントは必須か
基本設定と、クラウド同期・コミュニティ機能を切り分けられるか。 - オフラインでどこまで動くか
ネットワークから切り離した状態でも、設定の変更と維持ができるか。 - 設定データはどこにあるか
PC内かクラウドか。バックアップやエクスポートは可能か。 - 常駐と通信を止められるか
必要なときだけ起動する運用ができるか。通信先を確認できるか。 - 代替ツールの信頼性を確認したか
配布元、ソースコード、署名、必要な権限、対応機器、更新状況を確認したか。
OpenLogiについても、開発元自身が現在は活発な開発段階で、安定版とは限らず、機能や設定が変わる可能性があると案内している。アカウント不要という魅力だけで飛びつかず、対応機種や導入環境を確認する必要はある。
「公式だから安心」だけでは足りない
公式ソフトには、互換性、サポート、更新継続という強みがある。一方、公式であることは、利用者にとって依存が最小限で済むことまで保証しない。
逆に、非公式ソフトだから危険だと自動的に決まるわけでもない。ただし、公式と同じ水準の保証があると考えるのも早計だ。必要なのは善悪の二択ではなく、利用者が複数の選択肢を比較できる状態である。
OpenLogiの話題が歓迎されたのは、公式ソフトを倒すからではない。設定ソフトにアカウントやクラウドを必須にしない設計も可能だと、目に見える形で示したからだ。
便利さは受け取ればいい。ただし、便利さの契約書を読まずに署名する必要まではない。周辺機器は手になじむほど大事な道具なのだから、その設定の主導権くらいは使う側に残しておきたい。俺の労働時間はどんむが決めるとしても、マウスの設定まで誰かに決められる筋合いはない。
